節分2015
「ねえねえ、青鬼くん、この時期になると人間がなんか黒くて長いもの食べてるでしょ? あれってなんなのかな?」
「何って、恵方巻のことか?」
「へー、エホーマキっていうのかー」
「おいおい、きみ何年鬼やってるんだい、そんなの知ってて当然だろ赤鬼くん」
「えー、でもそんなに前からあったっけな」
「そういやあ、そうかもなあ。なんかここ数年で急に広まったような」
「でしょ?」
「なんか西の方のやつらがいうにゃあ、けっこう前からあったみたいだけどな。ほら、あのこんびにとかいう夜でも明るいところ。あれが増えてからこっちでも見るようになったんだぜ」
「はー、やっぱ青鬼くんは物知りだねえ」
「きみが知らなすぎるだけだろ」
「んー、そうなのかな。あ、でもね、ぼくはあのこんびにって嫌いじゃないんだよね。なんたって夜でも明るいし」
「バカいうぜ、夜は暗いもんだろ」
「えー、明るかったらいつでも遊べるしいいと思うけどなあ。その、エホーマキ?ってやつも一度食べてみたいな」
「……おい赤鬼くん、そりゃ本気で言ってるのかい」
「急にどうしたの青鬼くん」
「俺たちは鬼だろ」
「う、うん」
「鬼、ってのは『鬼門』のキ、だ」
「うん」
「鬼門ってのは縁起の悪い方角のことだろ。まあ人間にとっての、だけどな」
「そうだね」
「俺たちは鬼門から来る災いの姿形だ。そこへ『恵方巻』ときちゃあこいつは座りが悪い」
「そうなの?」
「まだわかんねえか、いいかい、『恵方』ってのは縁起のいい方角のことだ」
「あっ……」
「そうさ、俺たちとは相容れない存在なのさ」
「そうか…… ざんねんだなぁ」
「……俺は時々、なんできみが鬼なのかなって思うぜ」
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「おい! 赤鬼くん! どうした!?」
「あ… 青鬼くん。ごめん…ね……ぼく、食べちゃったんだ」
「食べたって…… 恵方巻かっ!」
「えへへ…あんなに食べるなって……言ってくれたのにねぇ」
「いい、しゃべるな!」
「でもね……青鬼くん……すごくおいしかったんだ」
「馬鹿野郎! いくら旨くったって、こんなんなっちゃだめだろうが」
「でも、できたら、青鬼くんと、ふたりで、食べた、か……」
「赤鬼! 赤鬼いぃーーーーー!」
赤鬼の体は光となって消えた。禍福を糾い昇華するように。青鬼の叫びは止まらなかった。山頂から麓の街を睨みつけ青鬼は呪詛の言葉を紡ぎだす。
「人間どもよ! 今は恵方巻を存分に味わうがいい! それは俺たちの! 鬼の! 死の! 味だ!
それが済んだら今度はこちらの番だ! 人間の死の味を教えてやる! 鬼門からくる災いを味わうがいい! この、鬼門巻で!」
青鬼は、金棒をグルグルと振り回しながら山を駆け下りていった、とさ。